ウイスキーを知る / 2 / 8

蒸溜のしくみ — ポットスチル・カット・2回と3回

蒸溜とは、アルコールが水より低い温度で沸くことを利用して、もろみからアルコールと香りを取り出す作業です。単純な原理ですが、「どんな形の釜で、どこからどこまでを取るか」で酒はまるで違うものになります。

ポットスチル — 形が味になる

ポットスチル(単式蒸溜器)は銅でできた、たまねぎや洋梨のような形の釜です。一度に仕込んだぶんを蒸溜しては空にする、バッチ式の道具です。

銅が使われるのは見た目のためではありません。銅は硫黄化合物と反応してそれを取り除く働きがあり、酒から不快な香りを減らします。蒸気が銅に触れる面積が大きいほど、酒はきれいで軽くなります。

だから釜の形が味を決めます。背が高く首の長い釜では、上りきれなかった重い成分が途中で液に戻り(還流=リフラックス)、軽く華やかな酒になります。背が低くずんぐりした釜では還流が少なく、重く濃い酒になります。釜から冷却器へ向かう横管(ラインアーム)が上向きか下向きかでも同じことが起こります。蒸溜所が釜を更新するとき、へこみの位置まで元の釜を写し取ると言われるのは、この形が製品そのものだからです。

加熱と冷却にも個性が出る

釜の温め方は現在ほとんどが蒸気による間接加熱ですが、釜の底を直接火で焚く直火焚きを守る蒸溜所も少数残っています。釜肌に触れた成分がわずかに焦げ、香ばしく重い酒質になると言われます。手間も燃料も余計にかかるので、これは効率より個性を取る選択です。

蒸気を冷やして液体に戻す装置にも二つの系統があります。管を何重にも巻いて水槽に沈めた伝統的なワームタブは、蒸気が銅に触れる時間が短く、硫黄分の残る重い酒になりやすい。現代的なシェル&チューブ式は銅との接触が多く、軽くきれいな酒になります。冷却装置ひとつでも酒質は動きます — 蒸溜とは、そういう細部の集積です。

度数の流れ

数字で追うと工程の意味がつかめます。発酵を終えたもろみ(ウォッシュ)は度数8%前後。1回目の蒸溜で20%台のローワインになり、2回目で70%前後のニューメイクスピリッツになります。蒸溜のたびにアルコールと香りが濃縮され、雑味が削がれていく — その進み方を、釜の形とカットで操るわけです。

カット — 真ん中だけを取る

蒸溜で出てくる液体は、最初から最後まで同じではありません。

どこからどこまでをハートとして取るかを決めるのがカットで、蒸溜所の個性そのものです。狭く取れば澄んだ酒になりますが量が減ります。広く取れば量は稼げますが雑味を抱え込みます。ヘッドとテールは捨てるのではなく、次の蒸溜に戻して回収します。

この判断は伝統的にはスチルマンの目と鼻で行われてきました。液を細い管に流して見るスピリットセイフという装置が使われ、これは徴税官が封をしていた名残でもあります。

2回か、3回か

スコットランドの標準は2回蒸溜です。1回目(ウォッシュスチル)でもろみを蒸溜して度数20%台の粗留液にし、2回目(スピリットスチル)でこれを蒸溜して度数70%前後の原酒にします。

アイルランドには3回蒸溜の伝統があります。回数を重ねるほど軽く、クリーンな酒になります。スコットランドでもオーヘントッシャンのように3回蒸溜を守る蒸溜所があります。

そしてその中間に、留液の一部だけをもう一度焚く「2.5回蒸溜」と呼ばれる考え方があります。荒さを削りながら厚みを残す狙いで、手間と収率を犠牲にするぶん、酒質に見返りを求める方法です。

ここで大事なのは、回数が多いほど良い酒になるわけではないということです。3回蒸溜は「軽く整った」酒であり、2回蒸溜の厚みとは別の価値です。どちらが上ではありません。

連続式蒸溜機 — もうひとつの道具

19世紀にアイルランドのイーニアス・コフィが実用化した連続式蒸溜機(コフィスチル/カラムスチル)は、蒸溜を止めずに続けられる塔状の装置です。高い度数まで一気に上げられ、大量に安く造れます。トウモロコシや小麦など大麦以外の穀物からつくるグレーンウイスキーは、この装置の産物です。

グレーンは軽くクセが少なく、単体で瓶詰めされることは多くありません。その多くはブレンデッドの土台になります。世界で飲まれているウイスキーの大半がブレンデッドであることを考えれば、連続式蒸溜機は業界の屋台骨と言えます。

ゲームではこうなっている

『蒸溜所の帳簿』は、蒸溜方式を収率・品質・費用の三すくみとしてモデル化しています。

方式収率品質原料費性格
2回蒸溜1.00±01.00標準。迷ったらこれ
2.5回蒸溜0.84+0.101.32最高品質だが重い。再々溜釜が必要
3回蒸溜0.90+0.061.10軽くクリーン。効率も悪くない
連続式(グレーン)1.00−0.051.00大量生産。ブレンドの土台

連続式の行は現実とずれています

上で「高い度数まで一気に上げられ、大量に安く造れます」と書いたのに、この表の連続式は品質が下がるだけの損な選択に見えます。これはゲームの都合です。現実の連続式の強みは時間あたりの生産量が桁違いなことですが、このゲームでは連続式に専用の原料(トウモロコシ等の安い穀物)とグレーン原酒→ブレンデッドという別の販路を持たせることで大量生産の役割を表現しており、表のような1回あたりの数値には現れません。この表だけを見て「連続式は劣っている」と現実の知識として覚えないでください。

2.5回蒸溜は「1本あたりの単価は最も高いが、量が減り費用も増える」設計です。序盤に選ぶと資金繰りが苦しくなり、規模と技術が育ってから効いてきます。史実の「手間をかけた造り」を、そのまま経営判断として置いたつもりです。

カットは「狭いカット(質重視・量85%)」と「広いカット(量重視・品質−)」の二択にしました。ヘッドとテールの回収まではモデル化していません — そこまで入れると操作が増えるわりに、プレイヤーの判断が変わらないためです。

釜そのものも育ちます。ポットスチルは500L・1,000L・2,000L・4,000Lと段階があり、最大の4,000L釜は価格10億G・据付に120日かかります(500Lなら14日です)。設備投資が「金を払って終わり」ではなく「据え付けている間は生産が止まる」時間の判断になっているのは、蒸溜という商売の設備がそれだけ大掛かりだからです。釜の形状の違い(背の高さや還流)まではモデル化せず、大きさと方式に絞りました — 形の違いを数字で遊ばせると、味という主観の領域を無理に点数化することになるためです。

関連: 麦からもろみまで銘柄の種類ポットスチルカット蒸溜回数

この記事について

ウイスキー経営シミュレーション『蒸溜所の帳簿』を作っている人間が書いています。 運営するKF-Works株式会社は秩父で蜂蜜酒(ミード)の醸造所を営み、ウイスキーの輸入・販売も行う酒類の会社ですが、 ウイスキー蒸溜所の現場出身ではありません。ゲームの数値を決めるために調べたことを、調べた順に書いています。

そのぶん、多くの入門記事とは書き方が違います。「熟成には時間がかかる」で終わらせず、 何年でどうなるのかを数字で置き、現実と食い違う部分は食い違うと明記します。 ゲームの都合で現実と逆にしてある箇所(樽の値段など)は、そのつど本文で断っています。

記述の誤りを見つけられた場合は kudo@kf-works.co.jp までお知らせください。確認して直します。

この記事で書いた仕組みは、『蒸溜所の帳簿』のなかで実際に数字として動いています。無料・登録不要で、ブラウザだけで遊べます。