ウイスキーを知る / 4 / 8
同じ酒を、同じ材の樽に、同じ日に詰めても、樽の大きさとそれが何回目の使用かで仕上がりの時期はまったく変わります。熟成を読むうえで、材と並んで外せない二つの変数です。
樽の中で起きているのは、酒と木が触れ合う反応です。ということは、同じ量の酒に対して、木に触れている面積がどれだけ大きいかが効きます。
小さい樽は、体積のわりに内側の表面積が大きくなります。だから小さい樽ほど熟成が速く進みます。速いことは良いことばかりではありません。木の成分が出すぎて渋くなったり、樽に支配された味になったりします。また表面積が大きいぶん、蒸発で失われる量も増えます。
大きい樽はその逆で、ゆっくり穏やかに進みます。長く寝かせる原酒ほど大きな樽が向くのは、このためです。
| 呼び名 | 容量の目安 | 性格 |
|---|---|---|
| クォーターカスク | 約125L | バット(500L)の4分の1が名前の由来。速く熟成し、蒸発も多い |
| バレル(アメリカンスタンダードバレル) | 約200L | もっとも標準的。バーボンの空き樽 |
| ホグスヘッド | 約250L | バレルを組み直して一回り大きくしたもの |
| パンチョン | 約500L | 太く短い寸胴型。容量はバットと同程度でも形が違う |
| バット | 約500L | 細長い縦型。シェリー樽の代表的な大きさ |
さらに小さい樽もあります。バットの8分の1にあたるオクターブ(約45〜65L)で、実験的な短期熟成に使われます。なお『蒸溜所の帳簿』の「クォーター(50L)」は、このオクターブに近い大きさを採用したゲーム上の呼び名で、現実のクォーターカスク(約125L)とは容量が違います。
ホグスヘッドが「バレルを組み直したもの」というのは面白い点です。バレルの板をほどき、板を足して大きく組み直すことでつくられます。樽は消耗品であると同時に、直して使い続けるものでもあるわけです。
樽は一度使うと、木の成分が減っていきます。そこで「その樽にウイスキーを詰めるのが何回目か」を区別します。
ここでも「1回目がいちばん良い」わけではありません。木の力が強すぎると原酒の個性が隠れてしまうため、長期熟成にはあえて力の抜けた樽を使う、という判断が成り立ちます。何十年も寝かせた銘酒がリフィル樽から生まれるのは珍しいことではありません。
『蒸溜所の帳簿』では、ピークの中心=サイズ基準 + 材の補正 + フィルの補正という足し算で飲み頃を決めています。実際の数字を出します(フィル=セカンドの場合)。
| 材\サイズ | クォーター(50L) | バレル(200L) | ホグスヘッド(250L) | バット(500L) |
|---|---|---|---|---|
| 新樽 | 16年 | 22年 | 23年 | 25年 |
| バーボン樽 | 18年 | 24年 | 25年 | 27年 |
| チャー樽 | 15年 | 21年 | 22年 | 24年 |
| シェリー樽 | 17年 | 23年 | 24年 | 26年 |
| 中古樽 | 24年 | 30年 | 31年 | 33年 |
フィルはここからさらに動かします。ファーストは6年早め、セカンドは5年遅らせ、リフィルは23年遅らせます。中古樽 × バット × リフィルなら、ピークは50年を超える計算になります。世代を越えて受け継ぐ樽、という遊び方がここから生まれます。
フィルはもうひとつ、ピークの幅も変えます。ファーストは前後5年と鋭く、セカンドは14年、リフィルは26年とゆるやかです。速く育つ樽は当たり外れがはっきりし、ゆっくり育つ樽は長く飲み頃を保つ — これは現実の感覚とも合っています。
正直に書いておきます。現実の樽市場では、ファーストフィルのほうが高価です。木の力が残っている樽ほど需要があり、とりわけ一度だけシェリーを入れたバットのような樽は高値で取り引きされます。回数を重ねた樽ほど安くなる、というのが実際の相場です。
ところが『蒸溜所の帳簿』では、リフィル0.6 < ファースト1.4 < セカンド2.8 という順にしてあり、セカンドフィルが最も高くなっています。現実と逆です。
理由はゲームの都合です。この作品でのセカンドフィルは、ピークが5年遅く、飲み頃の幅が前後14年と広い — つまり「多少ほったらかしても失敗しにくい樽」になっています。現実どおりに中間の値段をつけると、迷ったらセカンドを選んでおけばいい、という一択になってしまい、樽を選ぶ意味が消えます。そこであえて最も高くし、「扱いやすさに金を払うかどうか」を判断させる形にしました。
読み物として書いている以上、こういう現実と食い違う箇所は食い違うと明記します。ゲームの数字を現実の相場だと思って覚えてしまうと、この記事はむしろ有害になるためです。
関連: 樽の材 / 熟成のしくみ / 樽のサイズ ・ フィル
この記事について
ウイスキー経営シミュレーション『蒸溜所の帳簿』を作っている人間が書いています。 運営するKF-Works株式会社は秩父で蜂蜜酒(ミード)の醸造所を営み、ウイスキーの輸入・販売も行う酒類の会社ですが、 ウイスキー蒸溜所の現場出身ではありません。ゲームの数値を決めるために調べたことを、調べた順に書いています。
そのぶん、多くの入門記事とは書き方が違います。「熟成には時間がかかる」で終わらせず、 何年でどうなるのかを数字で置き、現実と食い違う部分は食い違うと明記します。 ゲームの都合で現実と逆にしてある箇所(樽の値段など)は、そのつど本文で断っています。
記述の誤りを見つけられた場合は kudo@kf-works.co.jp までお知らせください。確認して直します。
この記事で書いた仕組みは、『蒸溜所の帳簿』のなかで実際に数字として動いています。無料・登録不要で、ブラウザだけで遊べます。