ウイスキーを知る / 6 / 8

度数とボトリング — 40%の壁とカスクストレングス

樽から出した酒をそのまま瓶に詰めることは、実はあまりありません。ボトリングの手前には、度数をどうするか、濾すか、色を足すかという判断が並んでいます。ここは造り手の思想がいちばん見えるところでもあります。

40%という下限

スコッチウイスキーは、規則によって最低アルコール度数40%と定められています。40%を下回るものはスコッチウイスキーを名乗れません。

これは単なる表示上の決まりではなく、熟成の現場では現実的な締め切りとして働きます。樽の中で度数は少しずつ下がっていくため、長く置きすぎた樽は40%を割ってしまうことがあります。そうなると、どれだけ良い香りを持っていても商品にはできません。長期熟成には、この時計との競争という側面があります。

加水 — 薄めることは手抜きではない

樽出しの原酒は度数50〜60%台のことが多く、そのままでは刺激が強すぎて香りが開きません。仕込み水を加えて度数を整えるのが加水です。40%や43%、46%といった数字が定番です。

加水は品質を落とす作業ではありません。むしろ「いちばん良い状態で飲んでもらうための調整」です。ボトルの度数を46%に揃える造り手が多いのは、香りの立ち方と飲みやすさの折り合いがそのあたりにあるという判断です。

カスクストレングス

加水せず、樽から出したままの度数で瓶詰めしたものをカスクストレングスと呼びます。度数は高く、香りの密度も高くなります。

魅力は「自分で水を足せる」ことです。飲み手が好みの度数まで落とせるので、造り手の決めた一点ではなく、幅を渡されている感覚があります。同じボトルで、加水量を変えながら表情の変化を追える楽しみもあります。

冷却濾過とカラメル着色

ウイスキーを冷やしたり加水したりすると、脂肪酸などの成分が析出して白く濁ることがあります。品質に問題はありませんが、見た目を嫌う市場もあるため、冷やして濾す冷却濾過(チルフィルタード)が広く行われてきました。

一方で、この処理は香味成分も一緒に取り除いてしまうという指摘があり、あえて行わないノンチルフィルタードを掲げる造り手が増えています。ラベルにその表記があるのは、その立場を示すためです。度数46%以上ではそもそも濁りが出にくいため、46%という数字とノンチルは相性が良いという事情もあります。

色についても同じ議論があります。樽ごとの色の違いをそろえるため、カラメル色素(E150a)による着色が認められています。これも「味には影響しない」という立場と「わずかに影響する」という立場があり、無着色を明記する造り手がいます。

年数表記のルール

ラベルの「12年」は、混ぜられた原酒のうち最も若いものの熟成年数です。30年物の原酒が入っていても、12年物が1滴でも混ざっていれば12年と表示されます。年数表記のないもの(ノンエイジ/NAS)は、若い原酒を使っているとは限らず、年数に縛られない自由な設計を選んだ結果であることも多くあります。

ゲームではこうなっている

『蒸溜所の帳簿』では、銘柄を設計するときに「加水して度数を決める」か「カスクストレングス」かを選びます。カスクストレングスは瓶あたりの価値が高くなりますが、同じ樽から取れる本数は減ります。濃いまま少なく売るか、加水して多く売るか、という選択です。

40%の壁もそのまま入れています。樽の度数は熟成につれて下がり、40%を割った樽は商品に使えなくなります。台帳には40〜42%の樽に「度数↓」の警告を出すようにしました。まだ使えるが、そろそろ引き上げないと手遅れになる、という合図です。ここに気づかず何十年も放置すると、育てた樽をまるごと失います。

冷却濾過と着色はモデル化していません。プレイヤーの判断が変わらないためです — このゲームは「入れれば入れるほど良い」ではなく、判断が変わるものだけを入れる方針で作っています。

関連: 熟成のしくみ銘柄の種類40%の壁カスクストレングス加水

この記事について

ウイスキー経営シミュレーション『蒸溜所の帳簿』を作っている人間が書いています。 運営するKF-Works株式会社は秩父で蜂蜜酒(ミード)の醸造所を営み、ウイスキーの輸入・販売も行う酒類の会社ですが、 ウイスキー蒸溜所の現場出身ではありません。ゲームの数値を決めるために調べたことを、調べた順に書いています。

そのぶん、多くの入門記事とは書き方が違います。「熟成には時間がかかる」で終わらせず、 何年でどうなるのかを数字で置き、現実と食い違う部分は食い違うと明記します。 ゲームの都合で現実と逆にしてある箇所(樽の値段など)は、そのつど本文で断っています。

記述の誤りを見つけられた場合は kudo@kf-works.co.jp までお知らせください。確認して直します。

この記事で書いた仕組みは、『蒸溜所の帳簿』のなかで実際に数字として動いています。無料・登録不要で、ブラウザだけで遊べます。